Episode 1 インド版いろは坂越え 【雲上都市】

 清涼な空気。わたる風。  ネパールを臨む広い空。緑豊かな峰々。足下には晩秋の強い陽射しに照葉を輝かせ、どこまでも続く茶樹の茂み。その隙き間に咲く紫の野生のアゲラタムの花々。心地よい風がヒマラヤのこけのにおいを運んでくる。
 そう、私ははるばると海を越えて、インド最北東部に位置するダージリンの地にやってきた。ひたすら秋摘みのダージリン茶に逢いたくて。
 標高2000メートルから2500メートルまでの急斜面には、86ヵ所もの茶園(エステート)が点在する。そこで栽培されている高品質の茶葉のみが「ダージリン・ティー」の命名を許されている。

ジープで茶園に向かう途中。道路の両側には茶畑が広がっている
 厳しい気候のため、ダージリン茶の生産量は年間11000トンと極めて少ない。が、その優雅にして高貴な香味は、世界中の紅茶ファンの心を引きつけてやまない。
 収穫の時期によって、それぞれたぐいまれなる個性が表れることも、ダージリンティーの尽きない魅力のひとつだろう。
 10月から11月にかけての秋の紅茶(オータムナル)の葉は、明るい銅色から茶色味を帯び、その葉でいれた紅茶はデリケートで、かつ、まろやかだ。
 この輝きを放つ金色の飲み物を口に含むと?「・・・・・・」。感動のあまり、声が出ない。この瞬間にいたって、インド入国以来のさまざまな苦労が、一気に報われた思いだ。
 ああ、それにしても何という甘露!
 ところで、日本からこの雲上の都市ダージリンにたどり着くのに、最低3日はかかる。日本からの直行便がないので、シンガポールなどを経由して、まずはカルカッタかデリーに入る。そこから小さな旅客機に乗り換えて、バグドーガル空港へ。
 さらに先はジープをチャーターして、平地の田舎道を6、7時間のドライブ。道幅は日本の林道ほど。行き交う車はジープだけだが、人も動物も道路の中央を使うし、車が来ても知らんぷりなので、旅程は進まない。
 そのため、運転手のお兄ちゃんはクラクションを鳴らしっぱなしで走り続ける。車という車がそんな状況だ。
 その後、山中に入り、「インド版いろは坂」の急カーブを上り始め、バグドーガル空港から見えた雲上の高峰がこの山と判明するころには、みんな、車酔いに苦しむことになるのだ。
 楽あれば苦あり。
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